日記

氷の音

liebeseele(リーベゼーレ)

 

以前に奴隷だった女性から連絡があった。

連絡の内容は結婚をするというもの。てっきり当時の写真等の削除の依頼かと思ったが、彼女は最後に話がしたいと言った。

彼女と関係を持っていたのはもう四年ほど前になるだろうか。以前に運営していたブログを介しての出会いだった。きっとこのブログの事は知らないと思う。

僕は終わらせなければいけない仕事と家の雑務を終え、テレビを消し、まあるい氷の浮いたウイスキーを用意してソファに腰掛けた。

程なくして、彼女と約束していた時間になった。生真面目に、定刻ぴったりに彼女からの着信が鳴る。

久しぶり、と僕は言った。ご無沙汰しています、と彼女は返した。

一年以上連絡は取っていなかった。それでもこのタイミングで連絡をくれたのは、他人よりも濃い時間を過ごしていたからだと、今は思う。

当時の調教の話は旦那には死ぬまで言えません、と彼女は笑った。それはそうだろう、他人に調教されつくした女性を妻にするのは、些か勇気のいることだろうから。

30分程話した後、空になったグラスの中で氷が鳴った。カラン、という心地の良い音だった。

「最後にお話ができて良かったです」

ありがちなセリフと共に通話は終わり、僕は電話帳から彼女の電話番号を削除した。

彼女は取り立てて美人ではなかったが、心地の良い女性だった。懐かしい彼女の声を聞いた時、ウイスキーの氷の音のような心地良さがあった。

連絡手段を断つことへの未練はない。かつて尽くしてくれた女性が、幸せになって欲しいと思う。

 

 

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