半年くらい前のことだった。
新宿の改札を出た直後、いきなり肩を叩かれた。驚いて振り向くと、僕以上に驚いた顔がそこにはあった。
そこにいたのは中学校まで一緒の同級生だった男性である。
彼は当時よりも少しだけふっくらとしており、それでも面影の残っている顔ですぐに判別ができた。最後に会ったのは成人式だったと記憶しているので、十年以上会っていなかったことになる。
彼は急いでいたようで立話が出来たのは二、三分程度だったが、彼と別れた後に僕は様々なことを思い出した。
小学校~中学校卒業まで僕は毎日のように彼と遊んでいた。小学四年生の時に都内の他の地域から引っ越してきた彼は何だかませているように見え、それまでの同級生が途端に幼く見えたことを覚えている。
深夜番組、大人な雑誌。カルチャーショックは計り知れなかった。彼は自分が好きなものは堂々と好きだと言った。
そして何より、彼は「小説家になりたい」と言っていたことを覚えている。
当時は僕も幼いながらに小学校の図書室にある本を片っ端から読み漁っていたが、作家になりたいという発想はなかった。
成人式で再会した時もその夢は続いており、大学も文芸を学ぶ学科に進んでいたはずだ。
当時は僕も作家という職業にぼんやりと興味があり、後に大学四年生の時に賞を頂いた作品の初期版を書いていたように記憶している。
しかし成人式の夜の同窓会で話した時に僕は「趣味程度に小説を書いている」という話しかしなかった。彼ほど真剣に作家を目指していた訳ではなかったし、そんな僕が作家になりたいというのは無礼でさえあるような気がしていた。
その後、彼が作家として大成したという話は聞いていない。デビューが出来たのかもわからない。半年前に再会するまで、僕は彼が作家を目指していたことすら忘れてしまっていた。
短い立話の最後に彼は「今はIT系の仕事をしている」と言った。
彼は僕のように兼業作家なんて目指してなかっただろうから、もしかしたら夢が潰えたのかもしれない。いや、作家に年齢制限なんてものは存在しないから、虎視眈々とデビューを目指しているのかもしれない。
彼の自尊心を傷つけてしまうかもしれないという(余計かもしれない)配慮から、僕は自分が作家になったことを言えなかった。
彼の反応から察するに、僕が作家であることは知らないのだろう。
彼と生活が分岐してから、僕は沢山のことを経験した。人を傷つけたし、傷つけられた。人に優しくしてきたつもりだし、多くの親切を受けた。
何より悩んでいる女性と接する機会が多かったし、数えきれない後悔もした。
それらのひとつひとつが、僕を作家にしてくれたと感謝している。
しかし少なからず作家という職業を意識するトリガーになったのは彼だ。
彼は今でも、好きなものを好きと表明しているのだろうか。
◯◯くん、僕は作家になれたよ。
きっと君のおかげだと思う。
次はゆっくり話をしよう。美味いウイスキーがあるんだ。
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