日記

エンドロール

liebeseele(リーベゼーレ)

時間ができた。

今日会う予定だった相手が都合が悪くなり、僕は不意に一日をゆっくりと過ごす権利を手に入れた。

都合が悪くなった相手に対して不快に思うことも不機嫌になることもない。

人にはそれぞれ大切な時間があるし、僕の方が予定の調整を相談することもある。人は何かしらを譲り合って生きている。

 

夕方から、僕は久しぶりに好きなレストランに出掛けた。小さいけど、いつ訪れても必ず美味しい。必ず美味しいというのはレストランにとってとても重要な事だ。

古い木造のテーブルに座る。

スモークサーモンのテリーヌと牡蠣フライを注文する。飲み物は自宅に置いていない銘柄のウイスキーを選んだ。

程なくして、大きな氷を浮かべた琥珀が運ばれて来る。大きな氷は角が少なく、グラスの中でゆっくりと溶けていく。ウイスキーの為に削られた氷だ。

些細な事でも、何かに特化して作られたものは機能的だ。

テリーヌ、少し間があいて牡蠣フライが運ばれて来る。小さなテーブルは賑やかになり、牡蠣フライからは音を立てて湯気が上がっている。

ナイフを入れると「さく」と音をたて、牡蠣フライは半分に切れる。待っていたかのように衣の中から一層盛んな湯気が上がる。

僕はこの店に長く通っているので、店主は当たり前のように話しかけて来る。

僕は彼の趣味である写真を見るのが好きだし、彼が写真を撮るために行く旅行の話も好きだ。彼の人柄が好きなのだと思う。

十分にお腹を満たし、三杯目のウイスキーを飲み干した僕は会計を済ませ店を出た。

 

部屋に戻り、パソコンのスイッチを入れる。暖色の間接照明に切り替え、テレビでは映画を流した。古い外国の映画で、何度も観ている。

最初の頃は熱心に映画の内容を観ていたが、今では作業をする時にホワイトノイズのように流している。少しの雑音が僕の集中力を助けてくれる。

パソコンに文字を打ち続け、時折画面を見た。

あと十分くらいで画面の二人はキスをする。何度も観た映画だから、展開はわかっている。二人は幸せになる。

結末が分かり切っているから、僕はあまり興味を持たずに映画を流し続けることができる。

映画が終わる頃、パソコンの電源を落としテレビに向かう。

エンドロールを黙って見送る。

 

自分が握っているいくつかの結末を、どんな形で迎えることができるだろう。

それはきっと、関心を持たずに迎えることは出来ない。

 

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