小説・散文

短編小説「連鎖」

投稿日:

真っ白な部屋の中に、二つの椅子が横並びになっている。床も壁も天井も真っ白の、椅子以外には何も置いていない部屋。 


左側の椅子には女の子が座っていて、俯いてシクシクと泣いている。 


バタンッ


右側にあったドアが突然開いて、一人の男が入ってきた。 


「こんにちは。いいや、こんばんは、かな。隣に座ってもいいかい?」 


入ってきた男性は言いました。

泣いていた女の子は、相変わらず泣いたまま頷きました。

それを確認した男性は、空いていた椅子に腰を掛ける。

 
「どうして泣いているの?」 


男性は尋ねました。 


「私は人に優しくしたかったのに、迷惑をかけてばかり。優しくされてばかりで、人に親切をすることなんてできないの」 


女の子は大粒の涙を流しました。 


「君は人に優しくされた時に、『ありがとう』って言えたかい?」 


男性は尋ね、女の子は頷きました。 


「なら大丈夫さ。君はその人の親切をちゃんと受け取ったんだ。受け取ったモノは無くなったりなんかしないよ」 


すると、女の子は言いました。 


「子どもの頃は、『大丈夫?』って言葉が単純に、素直に嬉しかった。でも今は相手を心配させたことを後悔するし、自分が誰かにかけるにはひどく無責任な言葉に思えるの」 


わんわんと泣く女の子に、男性は言いました。 


「次に、目の前で泣いている人がいたら、上手いことなんて言わなくていい、その人のことを本気で思ってあげたらいいんだ。大切なのは上手く表すことじゃない。涙を止めてあげたいと思うことなんだ」 


女の子は、まだ泣き止まない。 


「私、不安なの。私はここまで自分で選んで生きてきたわ。後悔がない様に、たくさん考えて選んできた。それなのに、選んだあとになっても不安がなくならないの」 


すると男性は、柔らかな表情で言いました。

 
「不安を感じるのは、とても大切なことだよ。不安とか、悲しみとか、そういう気持ちを知っている人は、周りにいる大切な人もその気持ちを抱えているってことを分かってあげられる。それは不安を感じない強さよりよっぽど尊いものさ」 


まだ、女の子の目からは涙が溢れている。 


「私は、自分の顔が嫌い。泣いてばかりいて、ひどい顔してる。もう自分の顔なんて見たくないわ」 


男性は、今度は少し困ったように笑いながら言いました。 


「君はきっと、自分の一番良い顔を見たことがないんだよ。最高の顔をしている時っていうのは、大抵まわりに鏡はないものさ」 


それから女の子はしばらく嗚咽を漏らしていたが、次第に泣きやんだ。そして、ゆっくりと微笑んだ。 


「……色々とありがとう。少し、楽になれたわ。あなたに一つ聞いてもいいかしら?」 


「もちろん」 


「あなたの、目の下についているものは何かしら?」 


その問いに、男性は恥ずかしそうに答えた。 


「これは、涙の跡だよ。君に会う、ほんの五分前まで泣いていたんだ。僕も、もうそろそろ帰らなくちゃ」


「帰るって、何処に帰るの?」 


「自分の部屋さ」 


「私は、この後どうしたらいいのかしら」 


「僕は右側のドアから帰るよ。君は左側のドアから出て行くといい」 


男性はそれを伝えた後、右側のドアから帰っていきました。椅子から立ち上がった女の子は、左側のドアを開けて出てみました。 


そこには灰色の部屋がありました。 


灰色の部屋の中に、二つ椅子が横並びになっている。床も壁も天井も灰色の、椅子以外には何も置いていない部屋。 


左側の椅子には男の子が座っていて、おいおいと泣いている。 


女の子は、できるだけ優しく声をかけた。 


「隣に座ってもいいかしら?」

 

 

 

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執筆者:


  1. 到彼岸 より:

    文章というのは美しいのですね。
    知らなかったです。
    それでもやっぱり私は、わかっていても選びます。
    何度でも、尽くすほうを。
    運命ですね。

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