夏の終わっていく匂いがする。
雲が茜色に燃えて、晩夏のぬるい風が吹く。
湿気を含んだ不快な空気がまとまりつくが、この湿気がなくなる頃にはきっと季節は変わっているのだろう。
きっとこの夏に始まった関係も、終わってしまった関係もある。
一生を捧げると誓った人との一生は思っていたよりもずっと早く終わり、気持ちの整理もつかないままに時間と感情の不可逆を思い知る。
今現在も、僕のところには主従関係に関する様々な悩みの相談が来る。それは主従関係の始め方であったり、いま関係を持っている主人との悩みが大部分である。
先に伝えておくと、僕は相談をしてきた他所の奴隷を自分から口説いて関係を持ったりはしない。たまに逆恨みをされる事もあるが、大体は僕への相談など関係なく主従関係が破綻している場合が多い。
良いパートナーと関係を築けるのはとても幸せな事だ。マゾやサブミッシブの欲求はサドやドミナントでしか満たせない。
代替品の優しさやプレイでの満足は長続きはしないだろう。
主従関係が始まると、幸福の中でも奴隷は沢山の悩みを抱える。
主人の要望に応えられなかった時、自分の気遣いが足りなかった時。多くの場合、女性側に不備らしい不備はない。
しかし客観的な正しさよりも、主人からの評価が重要となる。他の男性からの評価は意味を持たない。それは相手が恋人や配偶者であっても、だ。
奴隷が主と出会って気づく事は沢山ある。自分はこんなに説明が下手だったか、伝えるのが下手だったか、相手の気持ちが読めなかったか。不意に不器用な自分に出会う。
縛られている時の心臓の音や、リズムが下手くそになる呼吸。頭を撫でられ子どものように喜ぶ自分。
散々経験してきたはずの悲しみや喜びを改めて主から与えられる。
幸福の中に悲しみや悩みがある。
手に入れた故の苦しさもあるが、替えの効かない唯一無二の関係や感情だ。
奴隷には伝わりにくいが、主も悩んでいるし考えていると思う。願わくば、お互いが悩んだ行く先が一緒なら良い。
不安の多い世界だが、踏み込んでみて見える景色もあるだろう。
次の季節を、良い関係で迎えられたら幸甚だ。
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