長い梅雨が続き、空を見上げる機会が減ったように思う。
かわりに窓を見る機会が増え、優しく打ちつける雨を見ながらぼんやりとした時間を過ごす。
雨は社会の音が自分の耳に運ばれてくることを疎かにする。今日は社会に組み込まれるべき日ではない。
そんなくだらない事を考えながら、僕はゆっくりと呼吸をする。
読みたかった本を読み、聴きたかった音楽を流し、香りの立ったパンを頬張る。
日常は忙しすぎる。起きて、歯を磨いて、出掛けなければならない。
毎日繰り返すのはとても大変だ。
幸福は外にばかりあるのではない、と時々思うことがある。
自分の部屋の中や、自分の中に、コーヒーカップの中にあることもあるだろう。
穏やかな自分も、従者に酷いことばかりしている自分も、それは表裏でも二重人格でもなく自分でしかない。
その自分を受け入れてくれる人と、僕は関係を持っているのかもしれない。
密室のベッドに腰掛け、脚の間に従者を座らせる。
正面から見据えた従者の顔はとても色っぽく、きっと今までのどの瞬間より綺麗だ。
こちらを見上げる従者の顔を見た時、僕は途方もないことを考えている。
「どうやってここまで歩んで来たんだろう」
日常があって、恋愛をして、傷ついて、傷つけて、星を観たり、見たくないものをみなければいけなくて、その果てに目の前に跪いている。
その女性が何を考えて来たのか。
何を美しいと思って何から眼を逸らすのか。
そんな事を知りたくて僕は、雨音の聞こえる部屋で茫漠とした時間を過ごしている。
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